concept exhibition Apr.「真」× 若杉栞南 #一日一鼓 Day3
concept exhibition Apr.「真」× 若杉栞南 #一日一鼓
テーマ「真」
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Day3
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フィルムに浮き上がる数秒前の俺は確かに“ぼやっとした顔”を写しているんだけど
想像していたよりも“変な顔”はしていなくて
「あぁこれが考えてる顔なのか」と納得してしまった。
青い目をした彼はフィルムを眺める俺をじっと見つめて
「自分の顔、初めて見たんだね」
なんて言うから
「今朝顔洗う時に見たよ」
そう言ったら
「そうだね。でもきっと、君は初めて自分の顔を見たんだよ」
と、よく分からないことを言ってきた。
きっと彼は哲学的な考え方をする人なんだと思う。
彼はふっと微笑むと、手招きした。どこかに連れて行ってくれるみたいだ。
初めてきた国でふわっと会話を交わした不思議な青年について行って良いのか?と不安に思いながらも足は彼の後に続きたがっていた。
きっと大丈夫だろうと勘が言っていた。
きっと大丈夫だろうと、正気の俺が頷いた。
心のどこかでは、この出会いの正体を知っていたのかもしれない。
そんなことを思いながら辿り着いたのは広い公園に力強く聳え立つ大きな木。
見上げると、木の枝には小枝で作られた小さな鳥の巣や花を咲かせそうな蕾。
それはなんだか懐かしいような気もして……
あぁ、そうか。
爺ちゃん家の近所に植っていた桜の木に似ているのだ。
婆ちゃんが毎日挨拶をしていた、桜の木。
ちっちゃい頃…まだヤンチャで無茶だった俺はその木から落ちて枝を折ったことがある。
折れた枝の断面は年輪を見せたまま。
そこから新しい枝が生えることはなく、一つの歴史が刻まれたかのように枝を折ったという真実を伝えてくる。
あの時の罪悪感を思い出してザワっと心が濁ったのは気のせいだっただろうか。
ちゃんと謝るんだよ。ちゃんと伝わるんだから。
そんな婆ちゃんの声が聞こえた気がした。
これは絶対に気のせいだ。でも…
おはよう
こんにちは
寒くないかい?
暖かくなってきたね
また今年も花をありがとう
と、木の肌に手を当ててまるで我が子と話すかのように優しく話しかけていた声が確かに脳裏に響いた。
ばあちゃんは、幾つになったんだろうか。
あれ?
ばあちゃん、最後に会ったのいつだったっけ
なんで最近あの桜見ていなかったんだっけ
……あれ?
木の周りをポツ…ポツ…と歩いていると、見覚えのある年輪を見せる枝の断面。
あれ…なんでこの木、ここにあるんだっけ?
何かを確かめたくて、俺は記憶の中の桜の木に“似た”木と
木に優しく触れる青い目の青年にポラロイドを向けた。
爺ちゃんにもらったポラロイドが
婆ちゃんが大事にしていた桜の木に“似た”木と
青い目の青年を捉えた。
to be continued.