concept exhibition Apr.「真」× 若杉栞南 #一日一鼓 Day2
concept exhibition Apr.「真」× 若杉栞南 #一日一鼓
テーマ「真」
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Day2
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世界には、夜が来ない街というものがあるらしい。
地球が傾いた状態で太陽の周りを回っているため起きる現象だという。
年に数ヶ月その現象が続く街の住人を本当はどこか羨ましいく思っていたのかもしれない。
気が付いたら……
(……もしかしたら、焦りとか不安とか熱意とか
そういう物をどこかに置いてきてしまった時から?)
とにかく、それくらいの頃から
夜が明けなくなったような気がした。
もちろん明けない夜はないのだけれど。
でも、そんな綺麗事を聞くのがうんざりで物理的に“明けるべき夜”が来ない街に行ってみたかった。
そんなわけで、夜のない街を俺は歩いていた。
深夜。
黒に限りなく近い青に包まれるはずの時間。
当たり前のように空は明るく
街には活気があり
観光客らしき人たちは興奮しているようだった。
何をそんなに…と馬鹿にしたい気持ちとは裏腹に
心臓がサワサワと落ち着かないのも現実だった。
満員電車に揺られる朝を思ってため息を漏らしていた深夜とは確かに何かが違っていたのだと思う。
だから、あの出来事が果たして現実のものだったのか、このサワサワした心が生み出した妄想…つまり「嘘」なのか未だに分からない。
分からないけど
幻かもしれないこの出会いが曙光となったことだけは紛れもない真実だった。
何度朝を迎え、何度夜を迎えたのか分からなくなった“ある明るい時間”。
どことなく声をかけて欲しそうにこちらに微笑みかける、綺麗な青い目をした青年と出会った。例の如く“それなりに(テストで点数を取れる程度に)”しか英語を学んで来なかった俺はなんと話しかけるのがいいのか分からず戸惑っていた。
「Hello. Nice to meet you.」……なんて
突然話しかけていいものなのだろうか?
会話が始まったらどう話を進めたらいいのだろうか?
あれ? と、気が付いたら明らかに“それなり”じゃなく考えている自分がいた。
そんな俺を面白がるように、とても綺麗な発音で彼は言った。
「そんなに焦って思考を巡らせないで」…と。
絵に描いたように美しいその目を細くして笑うと
イタズラっぽく「Nice to meet you.」と微笑んだ。
綺麗な発音で日本語を奏でる彼は俺が持っていたポラロイドに興味を持っていて、
「君を撮らせて」とレンズをこちらに向ける。レンズに吸い込まれそうな気分になったのはその先に彼の瞳があると知っていたからだろうか?
そんなことを考えていたら、少しボケッとした表情をレンズに向けていた。
慌てて笑顔を作ろうとしたらすでにフラッシュは焚かれていて、俺のぼやっとした顔が写っているであろうフィルムがポラロイドから出てきていた。
気付いた頃にはもう、彼のペースだった。
「それなり」の十八番が世界の空気を読み、世界とのバランスをとることだとしたら
彼は「それなり」から一番遠い存在なのだと思う。
to be continued.